ドラマなどフィクションの世界では、社長が「お前のような無能な社員はクビだ」と言い渡したり、ノルマを達成できない社員が「今月のノルマが達成できないとクビになる」と焦ったりするシーンが描かれています。
しかし、この解雇方法は、現実では違法である場合が多いのが現状です。
実際に、地方裁判所に解雇などを理由とし、地位確認を求めた労働審判(会社に対して自分がその会社の社員である確認を求めた)の件数は、令和2年度1853件ありました。多くの方が不当解雇にあわれていることの表れといえるでしょう。(出典:司法統計令和2年度)
正しい解雇の知識がない、順法意識が低い会社では、フィクションのような勝手な解雇が実際に断行されているケースが見受けられます。
能力不足を理由とした解雇をほのめかされた場合、これは「クビにされる理由として正当なのか」と強い疑問を感じるでしょう。また、解雇を受け入れるとしても、その補償はあるのか、あればどのようなものかも気になるところです。
本コラムでは「能力不足の解雇」に注目し、解雇が認められる条件や解雇を言い渡された場合の対応について、弁護士が解説します。
能力不足を理由とした解雇といっても、単に他の労働者と比較して能力が低いだけなのか、それとも業務遂行に支障がある程度なのかなど、能力不足の程度によっても解雇が認められるか否かは異なってきます。
また、労働者の雇用条件や立場によっても、解雇が正当なものとして認められるのかの判断が異なってくる可能性があるため注意が必要です。
基本的に「能力不足」のみを理由とした解雇が認められるケースは必ずしも多くはありません。
会社に勤めていると、ミスを連発してしまう・期待されたノルマを達成できないといったこともありますが、これらの事情のみでは、解雇が認められるような「能力不足」とまでは認められない可能性も十分にあります。
法律上解雇が認められる程度の能力不足とは、雇用関係が維持できないほどの重大なものであって、改善の見込みがないものだと考えられており、「他の労働者と比べて評価が低い」程度であれば解雇は認められないでしょう。
労働契約法第16条は、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」について無効であると明示しています。
他の労働者と比べて業績が低いという理由だけでは、このハードルを超えることは非常に難しいため、能力不足の解雇を言い渡された場合に、その解雇の無効を主張することは十分に考えられます。
新卒採用などの一般募集における雇用では、採用時点で対象者がもつスキルや役割などを具体的に期待していないのが通常です。
採用後の教育や実務を通じて、キャリアを形成しながら能力の成長を期待するものであるため、一時的な成績不振があったとしても、それだけで直ちに「能力不足」であると認められる可能性は高くありません。
試用期間中においては、本採用にいたっていない段階なので「企業側は能力不足と感じた者を自由に解雇できる」と誤解している企業も少なくありません。
しかし、試用期間であっても、解雇に関する会社の裁量には制限が設けられていますので、そう簡単に能力不足を理由に解雇をすることはできません。
使用期間中の解雇については、こちらのコラムで詳しく解説しています。併せてご覧ください。
>納得できない!試用期間の終了時、本採用されずクビ(解雇)になった場合の対応方法とは?
これまでの職務経験や資格などを生かしてヘッドハンティングされたケースのように、地位を特定して採用された場合には、一般的な採用とは別の期待をもって労働契約が結ばれていると考えられます。
このようなケースでは、期待を満たさない能力不足に対する解雇は、その他一般の従業員の場合と比べて認められやすくなる可能性があります。
能力不足を理由とした解雇が認められる事例は多くはありませんが、過去の事例を見ると裁判所は、以下の判断要素を用いて「解雇が適法か」どうか判断をしていると考えられます。
解雇理由として認められる「成績不良」とは、営業成績が悪い、作業効率が低いといったものだけを指すわけではありません。
たとえば会社に重大な損害を与える、企業経営や業務運営に重大な支障をおよぼすなどのことを指し、そのような著しい成績不良が認められた場合には、解雇が適法とされることがあります。
労働契約法16条に定められているとおり、解雇には「客観的に合理的な理由」が必要となります。
そのため、仮に能力不足が著しいと判断された場合であっても、その判断が会社の上層部や上司の感覚だけで下されたものであれば、客観的で平等な評価によるものとは言えません。
能力不足による解雇が認められるためには、前提として、労働者の能力が客観的な数字や指標によって評価されている、評価制度や目標の設定に問題はないといった、客観的で平等な評価によって判断されていることが必要となります。
労働者の能力不足が著しい場合で、改善の余地も見込めない場合は、解雇が適法とされることがあります。
ここでいう「改善の余地がない」とは、他部署への配置転換や指導・研修などの手だてを尽くしても改善されない状況を指していると考えられます。
そのため、たとえば、採用した人に全く指導をしないまま放置し、業績が上がらないから解雇したいというケースでは、まずは指導等を行うことによって改善の機会を与えるべきであり、解雇は回避すべきという判断になりやすいと考えられます。
対象となる労働者の能力不足によって、実際に業務に支障が生じ、会社に損失が出ている場合は、解雇が適法と認められやすくなります。
ある労働者ひとりの能力が不足しているとしても、企業経営や業務運営に重大な支障が生じていないのであれば、解雇という重大な処分を行うことは相当ではないと判断される可能性があります。
能力不足を理由とした場合に限らず、会社から解雇を宣告された場合にはまず「解雇通知書」と「解雇理由証明書」の交付を求めましょう。
特に、解雇をめぐって労働者と会社側とで交渉をしている中で、あるいは労働審判や訴訟へと進んだ場合に、会社側が解雇理由として当初説明していた理由とは別の理由を主張してくることも考えられます。
ですので、解雇通知書、解雇理由証明書を取得し、早い段階で会社側の言い分を確定させておくことが有益です。
不当解雇の撤回や、未払いとなっている解雇予告手当・未払い賃金などの交渉は、労働者個人では困難です。
その場合、弁護士へ依頼し労働審判や裁判を起こすといった方法を取ることが考えられますが、その際には解雇通知書と解雇理由証明書が重要な証拠になります。
また、実際には能力不足を理由として解雇されたのに、離職票に「自己都合退職」と記載されているという場合は、不当解雇に当たる可能性があるほか、失業手当の給付制限期間や受給額においても、解雇やその他会社都合退職による離職の場合と比べて不利になってしまいます。
解雇をめぐって争いになった際に、会社側が、「自己都合退職」と記載された離職票を根拠に、労働者が自分から辞めたのであるから、そもそも解雇などしておらず、労働契約法16条の解雇規制自体を受けない、という主張をしてくるおそれもあります。
そして、このような記載のある離職票を受け取って、実際には自己都合退職ではなく解雇である等の反論等もせず長期間放置していると、後から解雇を争うことが困難になることも考えられます。
客観的・合理的な理由が存在しない、社会通念上相当であるとは認めがたい解雇であれば、不当解雇にあたる可能性があります。
会社から能力不足による解雇を言い渡された場合は、会社側の言い分をうのみにするのではなく、弁護士への相談を検討することが重要です。
弁護士は、その解雇が本当に正当な解雇なのかという点について、過去の裁判例の傾向等も踏まえて検討することが可能です。
また、不当解雇を示す証拠の集め方をアドバイスしたり、有利な退職条件を引き出すべく会社と交渉をしたり、労働審判や裁判で本人の代理人となることができます。
能力不足を理由に解雇を求められているなら、まずは解雇理由が正当なものであったのかを確認すると同時に、弁護士へ相談することをおすすめします。
会社から「能力不足」を理由にクビを言い渡されてしまうと、まず会社の期待に応えられなかった自分を責めてしまうかもしれません。
しかし、能力不足を理由とした解雇には非常に厳しい条件があり、その条件を満たして適法と認められる解雇は必ずしも多くはないのが現実です。
能力不足を理由に解雇されてしまったことが納得できないとお悩みであれば、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
不当解雇をはじめとした労働トラブルの解決実績を豊富にもつ弁護士が、全力でサポートします。
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失業保険は、失業期間中に国から給付される手当です。会社を退職してから次の就職先が決まるまでの生活を支えるために設けられている制度です。失業保険は、解雇された場合でも一定の要件を満たせば受給することができます。
しかし、退職の理由などによって、受給される金額や受給日数などの条件が異なります。自分のケースではどうなるのかをぜひ知っておきましょう。最近の統計に目を向けると、令和2年度の一般被保険者への受給資格決定件数は、151万3612件で前年比12.4%増となっています。それだけ、失業保険給付の申請をしている人が多くなっているのが現状です。(出典:雇用保険事業年報令和2年度)
今回は、解雇された場合の失業保険の受給条件や手続き方法のほか、不当解雇だった場合の対処方法、65歳以上の解雇の場合の失業保険はどうなるのかについて、詳しく解説します。
入院をして会社を休んでいたことを理由に、会社からクビにされることはあるのでしょうか。
入院には、業務上のケガや病気によって入院した場合と業務外の場合があり、入院を理由した解雇が不当だと判断されるケースがある一方、解雇が認められるケースもあります。
本稿では、入院を理由に不当解雇となるのはどのようなケースなのか、弁護士が説明します。あわせて、長期入院によりクビにされた場合の対応方法についても詳しく解説します。
退職勧奨をされたら、必ず退職をしなければならないのでしょうか? 新型コロナウイルスの影響が長引いていることもあり、2021年の上場企業(募集人数を公表した企業69社)の、早期・希望退職者の募集人数は1万5892人となっています。(出典:㈱東京商工リサーチより) 景気の不透明さが増す中、「ある日突然、退職勧奨をされたらどうしよう」と不安に思っている方もいらっしゃるでしょう。 法的には退職勧奨されても受け入れる必要はありませんし、勧奨が強制のレベルに達していたら、会社側の行為が違法となる可能性もあります。とはいえ、退職勧奨されたら具体的にどのように対応すれば良いのでしょうか? そこで今回は、退職勧奨された場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
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